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漆芸品の鑑賞基礎知識
漆芸の伝統技法
「幕末・明治の工芸 」new
嵯峨野明月記
茶の本
日本の意匠(蒔絵を愉しむ)
琳派美術館
近世の蒔絵

美術館
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<たくさんある漆芸解説に関する書籍の中から、何冊かの本を紹介します>


漆芸の事を正確に紹介する本を著すには、自らその仕事に従事し精通していなければ、参考書籍の内容の寄せ集めに終わってしまいます。また技を表現する言葉も、持ち合わせなければなりません。その点でも次の2冊は優れた本です。

 
★「漆芸品の鑑賞基礎知識」  小松大秀 / 加藤寛 著  至文堂 (3,600円)
ISBN4-7843-0160-7 C1072
国立博物館漆工室長をはじめとした、博物館や美術館関係その他の学芸研究者の方々により、著された本です。

博物館や美術館などで、漆芸の技の粋をこめた作品に出会い、その見事さに魅せられます。そんな名品に使われている技術解説や、鑑賞のポイントを詳しく書いてあり、写真や図も豊富に載りわかりやすく、一般の方も漆芸に対する興味が深まり、楽しめる一冊です。

蒔絵の技法解説に関しては、参考図を含めて少し物足らない感じがするのは、技術者の監修がなされていない為かもしれませんが、ともあれ全体を通してすばらしい本です。
(一般向け)

 

★「漆芸の伝統技法」    佐々木 英 著   理工学社 (3,090円) 

ISBN4-8445-8532-0 C3072 P3090E
この本は自ら漆芸の作家でもあり、芸大で講師を務めるなかで教える立場から、漆工芸の工程や材料や道具などの詳しい紹介、またそれぞれの製法や作業に当たっての注意など丁寧に著してあり、良い本だと思います。これから漆芸の道を目指そうとする人達には、漆芸の概要を知る為に一読をお勧めします。
(専門書)
 



★「嵯峨野明月記」
         辻 邦生 著

 17世紀、豊臣氏の壊滅から徳川幕府が政権をかためる、慶長・元和の時代。 琳派創生に大きくかかわった、光悦・宗達・角倉素庵らが、書巻史上有名な「嵯峨本」の創作に至る情熱と執念を、戦国の世の対極として描いている。 特に、「一の声」「二の声」「三の声」と区分して、それぞれの歩んできた 道を回想したり、彼らの精神の奥底まで探ろうとしている所が見事です。琳派に興味を持つ方やファンは、必読の書だと思います。
 私は、蒔絵の職人として、過去の名品やなどが、どの様な状況でまた人のどんな思いで物が作られていたのか、想像をしながら見ようと努めてきました。そうすると仕事の跡から色々な事が見えてくるのです。私は研究者でもないので尽くせないのですが、今では叶わなくなりましたが、辻先生には琳派のあの時代の工芸や名品を作り出していた当時の事などを、話しを交わしてみたかったと残念に思います。
 
 ここに琳派の時代に関心のある方に、私が気がついた事をお話しておきます。 それは、NHKでも放送された、光琳の紅白梅図屏風の事から、私が常に考えてきた事が確かめられた事があります。 あの時代は、大胆な画風や意匠や技法が注目されていますが、鷹が峰の光悦村の古地図から見ても、色々な職人達が琳派の工芸家や絵師達を支えていただろうと、しかもその職人達の専門職の技術を支えに、琳派が生まれたはずと考えていました。  それが、NHKの報道で確信を得たのです。宗達のたらし込みの技法は、光琳の憧れの技でありゆえに、宗達の絵の写しを何枚か本格的に描いています。ですので箔を張った屏風にはたらし込みの技法で必要なにじみがいかせない事を十分知っていて、けども箔屏風の箔足が醸し出す背景を光琳は是非必要としたところから、金泥で箔足を描いて箔の背景を作り出したのです。  この事は、近年のX線分析により解明された事ですが、箔でないと判って、各分野の人達を驚かし、NHKスペシャルでも取上げられました。学者や画壇関係者の多くの眼に触れながら、箔屏風であると誰もが疑わないほど見事な技なのです。  私も仕事柄、絵画も色々と筆遣いの妙を学ぶ為に研究しますが、その事が判ったのですぐに、画集を拡大して見てみてもその箔足は見事な技術でした。こんな技を持っている職人が普段どの様な仕事に従事していたのであろうか、そんな事を考えたら、やはり技術と意匠(デザイン&プロデュース)が常に連携出来ていた時代だったのだと確信しました。 話はつい長くなりましたが、とにかくこの書は、ものづくりの者としても非常に興味深く、琳派の芸術活動が営まれた、京都 鷹が峰の光悦村の事も書かれていて、その当時の工人達の雰囲気も思い浮かぶことが出来、読み応えのある本でした。

(この中に書かれている「四季草花下絵和歌巻」を描いた蒔絵の工程をご覧下さい)

                                  記 蒔絵師 三谷 昭


                 制作工程公開



★「茶の本」
            岡倉覚三(岡倉天心)著
                     岩波文庫 (定価260円)

 岡倉天心はフェノロサと共に、世界に東洋美術(それを生み出す精神性も含め) を紹介したことで有名です。 その天心が著わした「東邦の理想」「日本の目覚め」「茶の本」は、世界に知 られていました。特に「茶の本」は「The Book of tea」と呼ばれ、外国では 茶の湯の精神だけにとどまらず、日本に関する独自の文明論まで著している本として、良く知られています。茶道をたしなむ方はご存じでしょうが、是非お読みいただきたい、お薦めの一冊です。
 



★「日本の意匠   蒔絵を愉しむ」  
 灰野昭郎 著
                         岩波新書 (定価750円)
 京都国立博物館の工芸室長であられた著者が、研究現場などで得た蒔絵の 意匠に関する逸話などを、エッセイとして綴られた本です。 簡潔でわかりやすく、工芸に深くふれた氏の心がところどころに現れ、工芸や蒔絵が身近に感じ、意匠の楽しみが得られると思います。
 



★「琳派美術館」
   集英社(全4巻) 1巻4,500円

 琳派とそれを支える、琳派的なる感覚の流れを総合的に捉え、デザインの今日性の解明に取り組んでいます。しかも専門書の様な堅さも見られず、誰でも琳派に興味がある方なら、楽しめると思います。
 




★「近世の蒔絵」  
 灰野昭郎 著    中公新書 840円

 書かれている内容を知っていただくために、いくつかの小見出しを列記します。

(海を渡った蒔絵)(大名婚礼調度)(柴田是真)(華ひらく近世の漆芸)
(近代蒔絵とヨーロッパ)(光琳蒔絵)(印籠・根付の世界)(奇想の蒔絵師)
(世界に羽ばたいた蒔絵)(MAKIEの行方)

 *著者は、おわりに「伝統工芸に祭り上げられた蒔絵」と、書きとめられていますが、蒔絵を愛するが故に、漆芸界を叱咤激励しようとしている、灰野氏の思いが伺えます。 私はなぜ蒔絵が衰退したのかとか、過去の名品の生まれたその当時に蒔絵などの繊細な仕事がどの様な環境で作られたのか、その仕事場の様子などがうかがえる古文書などは、見つかりませんでしたかなど聞いてみましたが、氏私も興味があるがなかなかそんなものが残っていないとご返事をもらいました。まだまだ色々お伺いしたい事があるのに、亡くなられて今は果たせません。

 氏が語っていたように、漆芸のすばらしい物が生まれる環境が無く、今非常に厳しいのですが、松田先生が漆芸の技術をいかす場としての仕事を生み出す努力をされ、素地にこだわらず新しい分野や装飾技術としての需要の創出を考えて実践しておられましたが、最近では素地が木でなくては、とか伝統という二文字を利用したブランディングが評価成果を上げる中で、技術よりもデザインが、市場にまともなものが出ない環境をもたらしている。この状況を「ブランディング汚染」と書けば湯気を立てる方も多いかもしれないが、灰野氏なら言いそうだ。
 灰野氏や松田先生が今の状況を必ずやそう嘆かれるであろう。今の世の中で辛口であろうが、正論や持論をしっかり話される方がいなくなったのは残念である。
着眼点の良い色々な可能性を持ったプランを引き上げる場が無ければ、新たに作り上げなくてはならないであろう。そうでなければ、今後夢を持って挑もうとする、わざある後継者は育たないし、すばらしい技術を日本の財産として、後世に残せない。
 海外とくに欧州とは格段に違うのは、技術とデザインのあやふやな接点である。